子供には関係ない

根気のないプロレタリアート。

リンダ・ブレア主演『チェーンヒート』と〝パロディ〟について

※[ある作品を褒めるにせよ、貶すにせよ、別の作品との比較でもって「こちらの作品はこちらの作品と違い、これこれ、こういうふうに優れている/劣っている」というやり方で論じるのは、あまり好ましい手法ではないと感じる。結局、論者の品性と語り口に委ねられることになるが、必然性に乏しい比較論は往々にして、主観的な感想を述べるだけに終始するであろう。と言え、論者自身にその自覚があるのであれば、主観的な感想を述べることが必ずしも悪いことだとは思わないが、何しろ、話題にする作品へ敬意を払う意味でも、作品同士を比較するのであれば、充分に慎重にやるべきである。

以上の前提を踏まえた上での本記事である、ということを予め断っておきます。]

 

『チェーンヒート』という映画を観た。いわゆる〝女囚モノ〟と言われるエクスプロイテーション映画である。調べてみると『チェーンヒート』は女囚モノ映画の中では名のある位置付けの作品であるらしい。この作品を今さら知った、ということからお分りであろうが、私は女囚映画に詳しくない。暇つぶしのつもりで「まあ途中で寝ちゃったらそれはそれで」、といった程度の意気込みで観始めたのだけれど、蓋を開けてみれば思いのほか面白く鑑賞した。DVDパッケージの裏面解説はまさにB級映画感がムンムンと匂い立つようで〝24歳の豊満ボディをフルスロットル!〟だの〝変態趣味の刑務所所長から性欲の餌食に〟、〝レズ!レイプ!殺人!〟だのといった言葉が並ぶ。

また、〝1983年のラジー賞女優賞を受賞〟といった記述もあったので、「どっちの意味で?ねえ、どっちの意味での受賞なの?」と不安と期待とが混紡となったような心持ちで鑑賞に臨んだが、いやいや、(ややオーバーアクトがちなところも含め) 素晴らしい演技でした。とても満足のいく作品であった。

と、『チェーンヒート』を観ている最中、以前にテレビで深夜に放送していた、あるドラマがずっと頭をよぎっていた。

そのドラマがやっていた時間帯は、普段私がテレビをつけているような時間帯でなく、たまたま、一度だけ放送しているのに出くわしてしまったのだが、マジでつまらない上に毎秒毎にイライラが鬱積していくような代物であった。(どうしてこんなに苛つかされるのだろう、とかえって目が離せずに、その回の放送をとうとう最後まで観てしまった。制作者がそういう狙いで作ったのだとしたら、まんまとやられたというものだ。当然ながら、次回放送を観ることなどあり得ないが)

その時の記憶を頼りにあのドラマが何というドラマだったのか調べてみた(当時はムカつき過ぎて調べる気にもならんかったのだ)。

で、そのドラマというのが剛力彩芽主演の『女囚セブン』というドラマであった。そう、そのタイトルから窺える通り、所謂、〝女囚モノ〟のパロディである。

もちろん、このドラマがいくら腐りきっていたとしたって、剛力彩芽はじめ、出演者たちには何の罪もない(女囚役なのに〝罪もない〟というのもおかしな話だね)。むしろ被害者である(女囚役なのに〝被害者〟というのも〜略〜)。それに第一、もうとっくに終了しているドラマに関してあーだこーだ言ってもしょうがないんだが、あの時のイラつきが鮮明に蘇ってきてしまって書かずにいられないので。それにしても、とてつもなく感銘を受けた映画であってもちょっと時間が経つとすっぽりと内容を忘れてしまうような私の欠陥頭脳に、一度観たきりのゴミドラマの記憶を焼き付けてしまうのだから、怒りという感情の恐ろしいことよ。

 

あのドラマの何にそれほどムカついたのか、最初は、おぞましいほどにつまらないギャグとか、或いは、仮にも殺人犯や重罪犯である女囚たちが、悔いる素振りもさほど見せず、その暮らしぶりをあたかもハートウォーミングなテイストで描いているという倫理観の欠片もない演出だとか(『チェーンヒート』の登場人物たちも犯した罪をまるで悔いていないが、彼女らの日々は殺伐としていて、このドラマみたいにへらへらした暮らしをさせてはもらえない)、そんな部分が腹立たしかったのだと合点していた。そして確かにそういった部分だけでも充分にゴミだと切り捨てて然るべきなのだが、今思うに、それ以上にどうしようもないのは、〝女囚モノ〟のパロディでありながら、そのジャンルに対して何ら敬意を払っていない、制作陣の心根が見え透いているということだ。

先に述べた通り、私は女囚映画に対して何の思い入れもないが、そんなことは関係ない。制作者たちのナメた態度がムカつくと言っているのだ。

「要はあれだろ? 女囚同士の絆とか諍いとか、あと看守との癒着とか密告とかさ、そんな感じの要素入れときゃ女囚モノっぽくなるんじゃん? そんで適当にギャグ突っ込んでさ、たまにちょっとシリアスなムードのシーン入れてさ。は? ストーリーの整合性? いーんだよそんなの。ただのパロディなんだからよ」

どうせこんなノリで作ったんだろう。

私の観た回(何回目の放送分かは知らん)を思い出す限りでも、女囚映画からの引用らしきシーンはいくつかあったが(しかし、よくこんなにはっきり思い出せるものだと自分でも驚いている。よっぽどムカついたんだな)、その引用は、ただ単に女囚モノっぽく見せるための小道具としての引用でしかなく、その姿勢はマジでいかがなものなのほんとに。ふざけんなよ。茶番劇というのにも値しない。ひとの作品を何だと思ってんだ?

たしかにエクスプロイテーション映画なんていうのはそもそもが、行儀のいい制作物ではないし、エロシーンと暴力シーンのつぎはぎで観客の目を一時的に悦ばせるだけのくだらない作品だって多いが、だからといって、それを小馬鹿にしながら猪口才に表面的なパロディ(ともホントは呼びたくないんだけどな)でイジっているだけの奴らが、監督だの脚本家だのと一丁前の制作者ヅラをしているのがほんとに腹が立つ。そんなやつらがいるからいつまでたってもドラマにしろなんにしろ、くだんないもんしか出来ないんだからもうやめちまえよ。何もテレビドラマでさすがに、強姦しまくってぶっ殺しまくれと言っているわけではないが、もっと他にやりようあんだろうが。

愛と敬意のないパロディは、他人のフンドシを巻いてクソをちびるようなものである(?)。せめて洗濯してから返却してあげてくれ(??)。

 

チェーンヒート <ヘア解禁版> [DVD]

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 ムカつき過ぎて話が逸れたので、チェーンヒートの詳細な感想はまたそのうちちゃんとやろうかと思います。やんないかもしんないけど。