子供には関係ない

根気のないプロレタリアート。

佐藤亜紀『天使』の書評……をするには私はあんまりオツムが足らないけどでもそれ以外でがんばる

佐藤亜紀の『天使』を読んだ。氏の著書を読むのは今作が初めてだ。一か月くらいかかってようやく読み終えた。私は実に無学なることけたたましく(要はとってもアホなので)、通読するのに非常に苦労した上、おそらく、物語の内容の半分もまともに理解できていない気がするが、それでも、文章自体がめちゃくちゃかっこよく、また〝感覚〟と称されるサイコキネシスティックな主人公の超能力(?)の描写がとても鮮やかかつ、実感的で、なんだかんだ楽しく読んだ。久しぶりに味わった、濃密な読書体験であった。終盤の、とある男爵の喋りっぷりなどは、大好物である〝品のない〟口語文のひとつの理想形、という具合で、ほんとにイカしてた。シビれた。(あの会話パート、やや説明的すぎるか、と一瞬思ったが、ノンノンノン。すぐに思い返した。あの男爵のしゃべくりを延々と聞いていたい気持ちになってしまった)

 
続編の『雲雀』も早く読まなきゃなー、と考えつつ(いろんな古本屋で探し回って手に入れたぜ)、10年以上も前に発表されたこの、とっぷり濃い口な『天使』という小説を、いや、佐藤亜紀という作家を、今になってようやく読んだ、この事の経緯を、遡ってお話しさせていただきたい。
 
ところで申し遅れましたが、私、物書きを志している者です。とある新人文学賞でも、二次予選まで残ったことあるんですよ、しかも2年連続で。すごくないですか?……というチンケな自慢をしてしまう程度に、低い志で小説を書いておる者です。
で、その2年連続で予選通過した某新人賞に去年なんと、一次で落選してしまったわけです。その時は、はぁ? と思いましたね、ええ。まじかよクソかよ死ねよ、って思ってしまいましたよね、正味な話が。
以前の私であればその時点で「やめだやめだっ、小説なんてっ。芋煮くせぇ」と挫けていたものですが、メンタリティの発達、といってよいかと思います、謙虚さと根気強さを今の私は知らず、身につけていたようです。何しろもうじきで齢30にもなろうとしていますのでね。
そんな、精神性の太さを獲得した私は、ここはひとつ、小説の書き方というものの教えを乞うてみようか、と考えたわけです。かと言って所謂、小説セミナー、とかいうのに通うのも馬鹿らしい話です。みっともないですよ、あんなの。精神の肥え太った私だって、流石にそこまで落ちぶれちゃいません。なので私は、作家の著した指南書により、学びを得ることにしたんです。
谷崎潤一郎文章読本』、大岡昇平『現代小説作法』、安岡章太郎『軟骨の精神』等、私はこれまでは小説本体、作品そのもの、にしかさほど興味を惹かれない人間だったのですが、小説周辺の諸事情、とでも言いましょうか、そういった作品の外側の部分が、作家自らによって詳らかにされていく読み物というのも、なかなかに面白いものです。
もっとも、安岡章太郎『軟骨の精神』は正しくは指南書ではありませんし、大岡昇平『現代小説作法』に至っては〝何か書きたいことがありさえすれば、あとはペンと紙さえあればいいのです〟、〝ぼくは小説作法なんてないと思っているのです〟、と冒頭から宣言されてしまっているので、私の当初の目論見は大きく外れてしまったのですが。
ちなみに補足を加えておくと、指南書や小説論のような書物は、テキストブック的なテキストとして機能することは当たり前のことながら、例文として、色々な作家の作品からの引用も載っており、その文章の美点や難点、またその作家に特有の手法、手癖などが解説されているので(まあわざわざ言うまでもなく、指南書や論文というのはそういう書物のことを指すのですが)、執筆のための学びを必要とされない方々にとっても、ブックガイド的なブックとして用いることが可能でしょう。小説家の手による小説論というのは、それが仮に、論理的に穴だらけの論文であったとしても、その小説家のメンタリティが垣間見られて興味深いものです。たとえ、ただの精神論に過ぎない論理であっても、小説家の精神性に触れることができるという意味で、その論文は意義深いものではないですか。
すっかり補足が長く、蛇のようになってしまいましたので、話を元に戻します。ここにきてようやく、佐藤亜紀です。
しかし、初めに手に取ったのは『小説のストラテジー』という本で、『天使』ではありませんでした。
『小説のストラテジー』を選んだ理由は単純で、帯の〝書き/読むための究極の指南書〟という惹句です。何しろ、究極の、ですから読まない訳にはいきません。
 
でも、小説家の指南書を読む前には、その作家の作品にも一度くらいは目を通しておくべきだろう、と思って買い求めたのが『天使』という小説であった、というわけです。
そして、この『天使』を味わった感想は。今回の記事の頭まで。

 

天使 (文春文庫)

天使 (文春文庫)

 

 

小説のストラテジー

小説のストラテジー

 
 
 

[追記・2018/03/09]
第123回文學界新人賞では無事、2次予選通過していました。3次で落ちていましたけど。これで三度目の2次予選通過です。今回もし1次落ちだったりしたらほんとヤケを起こすところでしたよ。
それにしても、もうそろそろ私にやらせてもらえませんかね?もうじき三十路になるんですよ。