子供には関係ない

根気のないプロレタリアート。

[感想文]キーファー・サザーランド監督『気まぐれな狂気』

「気まぐれな狂気」、……ってカッコよく言い過ぎだろ。「行き当たりばったりなおとぼけギャング」と言ったほうが当たっている。

彼らは〝気まぐれ〟というよりも単に、〝計画性がない〟だけであって、〝狂気〟じみているのではなく、〝知性に乏しい〟のである。

 

「『トゥルー・ロマンス』より過激!『レザボア・ドッグス』よりクール!」という謳い文句の時点で、嫌な予感はしていたのだが、鑑賞し終えてはっきりした。たぶんこの映画の宣伝担当者は頭を抱えたのだろう。もし俺がこの映画の宣伝を任されたとしたら非常に困る。

〝一体、この映画をどうやって宣伝したらいいのか。こんなもんただの『トゥルー・ロマンス』と『レザボア・ドッグス』の下手くそなパクりじゃねぇか〟と。

おそらくそうして、何とかかんとかひねり出したのが、先の、いかにもダメそうな謳い文句なのだろう。お察ししますよ。

 

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キーファー・サザーランド監督・出演、ヴィンセント・ギャロ主演……ってことでいいんだろうか。そりゃまあ、ジャックバウワーがメガホンを取っただけのことはあるね。テレビのドラマみたいな安っぽさが全編にひしめいている。ダサいスローモーション、オヤジ臭い音楽の使い方。また、演出ばかりでなく、人物たちの感情さえもひどく安っぽい。あの黒人の刑事は何がしたかったんだ。

そして、思わず笑ってしまう恥ずかしげもないほどに明け透けなパクりだ。パクりというか、『レザボア・ドッグス』を意識し過ぎだろ、ジャックバウワー(笑)。

コインがどうした、トワイライトゾーンがどうしたなんていう無意味な雑談パートとか、いきなり拳銃ぶっ放して取引相手を撃ち殺しちゃったりとか、導入からそんな具合でタランティーノ。一番笑ったのが、レスリー・ゴーア〝涙のバースデイ・パーティ〟をバックに流して拷問するシーン。それ完全にレザボアのアレじゃねぇか!急にレスリー・ゴーアって不自然だよ!まあ、そのちょっと前にジャックバウワーが60年代くらいのレコード掛けて踊ってるシーンもあったけど、基本的にこの映画で使われている音楽とは明らかに毛色が違うんだよ。観ればわかる。ただ単に、レザボア・ドッグスのあのシーンがやりたかっただけなのだと。ていうか、その拷問をする敵役(名前忘れた)のキャラクターにしても『トゥルー・ロマンス』のあいつ(名前忘れた。なんかほら、クリスチャン・スレーターの親父の家に来た、すっげえ怖い人いたじゃんね、あいつ)の感じだし。とにかくこのシーンのダサさがこの映画の駄作っぷりを象徴している。レスリー・ゴーアの曲の止め方、そのタイミングに至るまでがダサい。徹頭徹尾ダッサダサだ。

うわーひでーな、なんて思いながら鑑賞すればまあまあ楽しめるかもしれないが、完全なる時間の無駄であるということも同時に保証する。

付け加えるなら、この映画はギャングたちに人質に取られたカップルへ焦点を絞るべきだったと思う。特にゴードン(カップルの男の方)へ。

ギャング側のカップル(ギャロとその恋人)の〝できちゃったみたい♡〟な件のイチャつき、黒人刑事のパッとしない囮捜査、ジャックバウワーの全然怖くないサイコ感、そんなのは全部排除して、人質に取られた、人畜無害に善良なゴードンの心の中にふと立ちあらわれた、不良への憧れと、その憧れのせいで、無様な振る舞いをしてしまう姿、そこに見所を絞るべきだった。

私のように学生時代、まるで不良でなかった男子ならばきっと共感し得るはず。不良っぽい先輩や同級生から、ちょっと親しげに接せられると何だか自分までカッチョいい悪党になれたような気がして嬉しくなる、その気持ち。

何しろ、タランティーノ作品からパクったようなキャラクターのギャングたちであるので、ジャックバウワーもギャロも愉快で取っつきやすいフランクな人柄なのである。軽口たたきながら一緒にクイズなんかしちゃったりして。(タランティーノ映画の場合はそこからすげえ怖い人物へと変貌するのがエキサイティングなのだが、この映画は終始ずっとただの気のいいギャングたちだった。まじで何なんだ(笑))

ついついワル仲間に加わったような気分で浮かれちゃったゴードンは、恋人のことを〝俺の女〟なんてうっかり口走って彼女から叱られるわ、囮刑事から「何をへつらってんだ」とたしなめられるわ、挙句、ギャングたちにカッコいいところを見せようとして、バーでモメた一般人の喉をナイフで切り裂くわ(ダメじゃん)、踏んだり蹴ったりなのである。

ちなみに、喉を切られた一般男性はジャックバウワーにトドメをさされて死んじゃったんだけど、例の囮捜査の黒人刑事は「トドメをさしたのはお前じゃなくてジャックバウワーだから、お前は何も悪くない」という警察とは思えない理屈でゴードンを放免する。正義ってなんだろうか?

ラストで甘ったるい救済を与えたりせず、ゴードンさんをダークサイドにとことん突き落として、みじめさたっぷりに描いていればもっとマシな映画になったんじゃないですかね。変なカーチェイスとかよくわかんないラブシーンとか要らないし。まあ、そんな感じでした。


あ、でも演技自体はみんな割と良かった気がする。それを見せるための演出とストーリーが酷かったってことなんじゃないでしょうか。知らんけど。