子供には関係ない

根気のないプロレタリアート。

夏の窓辺で

二階建てアパートの角部屋に位置する、といっても、このアパートは全四室、一階に二室、二階に二室、という造りなので全室角部屋になるのだが、自分はこのアパートの二階部分の片方の部屋に居住していて、人口密集地東京都23区内にある安アパートとあれば、必定、自分の居室は隣の家屋と密接することとなる。
ところで、この居室は、狭いながらも、一畳半ほどの炊事場のようなものを有するのだが、その炊事場の窓、すなわち、炊事場と外とを隔てる、一枚あたり六十センチメートル四方ずつ位の、二枚の磨りガラスの向こうに、ちらちらと動く影があり、気になって覗いてみたところ、それは隣家の敷地内、外壁沿いに茂る藪から伸びてきていた、草の蔓だった。
植物のことには明るくないが、おそらく雑草の類であろう、どう見ても、隣の家の住人が丹精込めて育てたとは到底思えないその蔓が、俺の居室の窓に填められている、アルミの鉄柵にぐるぐると巻きつくようにして生長して尚、さらにその身丈を伸ばそうと、天空を仰いでゆらゆらと揺れ動いているのだ。
仔細に観察すると、その蔓には無数の蟻やら小蝿やらがたかっていて、雨露だか、自身から沁み出した汁だかは知らないが、そんなものをじくじくと滴らせている。
その様子に、なんだか不吉で、嫌らしいものを感じた俺は、そばの調理棚から調理用バサミを取り出し、触れることにさえ躊躇しながらも、なんとか、その蔓を切断した。さらに、腕を捩るようにぐいっと伸ばして、鉄柵に巻きついていたものも切除し、指先で摘まみあげたその蔓を、舌打ちまじりで放り捨てた。
青臭い匂いが指先に残った。